豪華マンションの警察特別募集枠の条件を満たすため、高校からの友人、チョン・イヒョン(パク・ヒョンシク)と契約結婚することを決めたユン・セボム(ハン・ヒョジュ)。しかし、「狂人病」の感染が拡大し、マンションに閉じ込められてしまう。
ゾンビのシーンは少なめでそこまでグロくないですし、急に脅かしてくる系もほとんどないので、韓国ゾンビ気になるけど怖いなぁ、ヒョンシクの演技見たいけどゾンビかぁ、と思っている方も見やすいゾンビドラマかと思います!
このゾンビドラマはひと味違う!
クオリティが高いことで有名な韓国ゾンビドラマ。その中でも、「ハピネス」は単なるゾンビパニックドラマじゃないんです。
まず、ゾンビウイルスが完全なる生きている人間の「感染症」として定義されていること。つまり、人間自体が「死」に至ると、ゾンビとしても死ぬのです。感染して、狂人病を「発症」しても、症状が落ち着けば人間としての自我を取り戻す。一度発症して人を噛んだ後、ふと自我を取り戻すと口が血で染まっている。コロナと同じく、「感染したこと」を隠して、感染していない人に接触することが可能なんです。
そして、今までのゾンビドラマは、ゾンビになる=死を意味していたので、ゾンビを殺すことはあまり厭われる行為ではありませんでした。生きている人間を守るために、ゾンビ化した人を殺し、そして生き延びる。対ゾンビの構造でした。しかし、このドラマは、ゾンビ=生きている人間です。だから、ゾンビは殺さないんです。追いかけてくる大量のゾンビから逃げ走る。そのようなゾンビパニックも起こりません。では、何が面白いのか。
このドラマが訴えるのは、恐るべきは「ゾンビ(感染症)」ではなく、利己的な「人間」である、という点です。
高層マンションで起きる、利権問題、不倫、差別、食料問題。そして、長時間の閉鎖で募っていく疑心暗鬼。視聴者からすれば、大人しくしておけばいいものを、と思うのですが、落とし物を取りに行ったり、感染者の隔離を解除したり、そしてサイコパスが紛れていたり…襲ってくるゾンビより、自己保守的な人間の方が怖いんです。アンドリューが本性を現した後の惨憺たるマンション。あのパニックを起こしているのは、ゾンビではない、というのが興味深いところではないでしょうか。
タイトル「Happiness」が示す幸せとは
感染症は終息し、幸福そうな生活を送るイヒョンとセボムの姿で終わりを迎える本ドラマですが、ハッピーエンドというにはあまりにも多くの犠牲を払っています。では、感染症のない「平凡な日々が何よりも幸せだ」という意味でしょうか。それでは、少しメッセージ性が薄すぎる気がします。しかも、最後はアンドリューも撃った。幸せの手に入れ方にしては、あまりにも残酷でスッキリしない。
私は、狂人病の拡大という非日常的な経験を得て、善良な人間が自分にとっての幸せとは何かに気づくことができたことが、このタイトルの意味ではないかと思います。いい行いをする人は「幸せ」に気づく機会を得ることができた。反対に、自分勝手な人間が作り上げていた己の「幸せ」は、人間の本性が出ることで崩れ去っていってしまった。
タイトルの「Happiness」の文字、よく見ると「ness」の部分だけ反対になっています。これは、利己的な人間(棟代表や弁護士)が失った見せかけの幸せを指すのではないでしょうか。
①イヒョンとセボム
元々は、契約結婚だった2人。物語冒頭には、所有権についての契約も交わしています。しかし、この狂人病事件をきっかけにセボムはイヒョンへの本当の自分の気持ちに気づきます。窮地に陥った時、イヒョンが身を挺してセボムを守ってくれたこと。そして、イヒョンがピンチの時、セボム自身もイヒョンを守りたいと思ったこと。2人のお互いへの愛が、この事件を通じて認識されたのです。エピローグでは、契約結婚でなく愛し合う2人の夫婦として平和になったマンションを2人で歩きます。
②602号室の弁護士夫婦
弁護士の夫へソンと、秘書を務める妻ソユン。元々夫のへソンの仕事のやり方や性格に不満を感じていたソユンですが、狂人病パニックの中、へソンの独りよがりで身勝手な行動を見てへソンと縁を切る決心をします。利己的な夫は夫婦生活を失い、善良な人間ソユンは悪と縁を切り、自分の幸せを掴みに新たな人生に踏み出します。
③601号室の医者
封鎖されたマンション内で人間関係を荒らしまくったジュヒョン。悪者を仕立て上げ、人々の恐怖心を煽り、使えるものは全部使って生き延びようとする。結果愛人に殴られ、暗号資産(結局は価値を失いましたが)を奪われ、散々な結末となりました。本当にこいつが厄介すぎた。
④棟代表
実は詐欺師だった棟代表。周りを固めることで、棟代表の地位を確固たるものとし、マンションの資産価値を高めて金儲けを企む詐欺師。狂人病パニックの中、夫を失い、化けの皮が剥がれ、計画の全てはボロボロ。理想の姿とはかけ離れて、全てを失います。
⑤302号室の家族
途中から影を潜め、存在を忘れてしまった視聴者も多いであろうネット配信者の息子とその両親。そういえば序盤は、お父さんが住民会議でワーワー騒ぎ、息子はスマホを落としたスマホを外に取りに行く際に感染者をマンション内に招き入れてしまう等、なかなか目障りな存在でした。感染者に引っ掻かれたお母さんはそれを黙っていた(発症してなさそうだからいいのだけれども…)。決して善良な人間だったとは言えませんが、最終的にはなんとなく救われた感じで終わっていますよね。きつい言い方をしますが、この家族には自分の人生も他人の人生も脅かすほどの知恵も力量もなかったのではないでしょうか。口だけ達者な凡人の父と、気弱な母と、自分では何もできない息子。これからも、可もなく不可もなく、不満だけを述べて人生過ごしていくのではないでしょうか。
⑥401号室の作家と兄
物語冒頭では、家に寄りつく兄を疎ましく思っていた妹。兄が感染すると、妹は今まで兄に対して言ってしまったことや自分の態度を悔やみます。感染した兄も、妹を思う気持ちからおとなしくマンションの外で事が収まるのを待とうとします。言葉にはできなかったものの、本当はお互いを大切に思い合っていたことを認識した兄妹。兄はセボムと同じ抗体保有者で、狂人病を発症することなく物語は終わりを迎えます。兄妹愛の物語でしたね。
終わりに
以上、すべての登場人物ではありませんが、私なりに「Happiness」の意味を考察してみました。大パニック逃走劇ではなく、人間の怖さが露呈するゾンビドラマ。美男美女がピンチに立ち向かう姿が美しすぎて…。途中、イラつくところがあるのも韓国ドラマ。ゾンビドラマを避けてた人にもぜひみてほしい作品ですね!
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